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日々の空

気の向くままに写真を撮り、思いつくまま文章を綴った日々の泡の記録。

奥山淳志さんの「庭とエスキース」

 
奥山さんの「庭とエスキース」を読んで、感想をなんとか残したい、誰かに伝えたい、という思いとは裏腹に、自分の表現力でこの思いが全然伝えられないもどかしさから、どうしても筆が遠のいていた。
そして怒涛のような日々に突入し、気づけば随分時間が経ってしまっていた。

先日、全国巡回中の「弁造さんの庭とエスキース」展が神戸で開かれ、奥山さんが来られてトークショーが行われることを知り、なんとか駆けつけて久しぶりに奥山さんともお話することができた。
そしてこんなに素晴らしい本が少しでも多くの人に読まれることを切に願う一人として、やはり何かを伝えないわけには行かない、という思いを改めて強くし、拙い文章であろうと何であろうと、とにかく言葉に落とそうと再決意した次第。


首を長くして待っていた「庭とエスキース」が届き、食い入るように読み、東京に移動しなければならない時にも新幹線でずっと読み続け、深く心に残るエピソードや文章はスマートフォンで写真を撮って何度も読み返した。
気づけば弁造さんと奥山さん、そして写真集の中ではそこまで大きく登場していなかった奥山さんの愛犬さくらが、自分の中にどんどんと入ってきて、いつのまにかその魅力に取り憑かれている。

個人的なお付き合いの中から、「庭とエスキース」が世に出るより前に、たくさんの弁造さんにまつわるエピソードやお話を聞いてきた。
写真集も穴が空くほど見続けている。
だけど文章で綴られる弁造さんは、また写真とは違ったリアリティを持って、目の前に立ち上がってくる。
銀座の奥山さんの個展で、そして神戸の弁造さんの個展で聞いた弁造さんの肉声と相まって、なんともチャーミングで魅力的な弁造さんという人物が、会ったこともないのに身近な人のように感じられる。

何より奥山さん文章は、ブログであっても写真集の中のエピソードであっても、いつも強烈に思考を刺激し、いつも頭の中で様々な思いが浮かび上がってくる。
自分は奥山さんの写真はもちろんのこと、文章もとても好きなので、これだけのまとまった文章を手に取れる物理的なものとして所有でき、体験できることの喜びはとても大きい。
奥山さんの文章には、いつも問いがある。
それも簡単には答えがでない問いばかり。
「庭とエスキース」でも、具体的なエピソードが語られると同時に、この「問い」の答えを探し続けるような言葉が並ぶ。
だから、自分にとってはこの本は単なる弁造さんの物語ではなく、生きることを考えるための導入剤であり、ある種の哲学書のでもある。
奥山さんがいつも言われているように「わかった気にならない」ことに注意しながら、でも奥山さんの文章を読んでいると、なんだか少しだけ近づけたような気になる断片が散りばめられているように思うから、心が満たされる。
でも、本当はその核心の部分は、近づいてしまうとしゅっと消えてなくなってしまうのかもしれない。そこにふっと読者を近づけてくれて、でも消えてしまわないように突き放してくれる、そんな文章が並んでいる。

弁造さんにとって社会に伝えたいものはとても明確だったように見える一方で、自分の内面から湧き出る「絵を描くこと」については明確に語られない。
人生を賭して伝えたいものがある一方で、伝えなくてもいいものもあるということだろうか。
生きることで残るものはなんだろう?残したいと願って生きるものってなんだろう?
伝えたいもの?残したいもの?伝えるのではなく表現したいもの?表現することと伝えることの違いがあるのか?
読んでいて、考えていても、自分の中にもどんどん問いが浮かんでくる。

写真はシャッターが押された瞬間の時間を目の前に連れてきてくれる。
その前後の時間を想像することもできるし、複数枚の写真で季節の移り変わりや時の流れを感じることもできる。
今回「庭とエスキース」を読んで感じたのは、写真を見たときとの感覚の違いだ。
当たり前といえば当たり前だが、奥山さんによって語られるエピソードの数々や、弁造さんと過ごす時間の描写が、実際の時の流れを半ば強制的に体験させてくれる。
これは文章を追いかけながら、追いかけている時間、つまり読んでいる時間自体を拘束されながら体験していることからくるものかもしれないが、ここに写真とは違った感動、喜びがある。
写真と文章という、まったく別の次元のメディアが、弁造さんと奥山さん、そして愛犬さくらの三者によって交錯し、無限の広がりを見せている、そんな感覚を持つ。
弁造さんとの日々を文章で読みながら、写真集で何度も見たあの写真を映像として思い浮かべる。
弁造さんの庭の写真を見ながら、文章で読んだエピソードや奥山さんと弁造さんの関係性を思い浮かべる。
なんと贅沢な体験だろうか。

弁造さんのことを知ってから随分時間が経つ。
まだ生きていた頃に一度お会いしてみたかったなぁ、という感覚もある。
でもすでに会ったこともないのにどこかに親しみを感じている。
出会いというのはお互いがお互いに影響し合って成立するものだとすると、自分は弁造さんには出会っていないのかもしれない。
だけど、奥山さんを通じて弁造さんの言葉を自分の人生の中にどこかで取り入れているだろうし、奥山さん自身の言葉も自分の中に入り込んで来ているのだと思う。
奥山さんの写真に出会い、奥山さんと出会い、弁造さんの人生に触れることができ、自分の人生が少し豊かになる気がする。
多くの本を読んできたけれど、こんな風に思える本にはめったに出会えない。
そういう意味では、本当に奇跡のようなことだと思うし、いろいろな偶然に感謝したい。

まだこれから「弁造さんの庭とエスキース」展は全国を巡回する。
これまで奥山さんのこと、弁造さんのことを知らなかった人との出会いが生まれ、同じような体験をしてもらえて、さざなみのようにこの感覚を持つ人が徐々に増えていくといいな、と思う。


  1. 2019/09/29(日) 00:19:00|
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