帰り道、ふと見上げると月が眩しい。
気温が低いせいだろう。
心地よい季節はあっという間に過ぎ去っていく。
陽射しの恋しい季節は、もう目の前だ。
去年の今頃どんな写真を撮っていたのか、ふと気になって調べてみた。
ちょうど
大正湯が取り壊された直後で、毎日のように瓦礫の山を撮っていた時期だ。
1年経って、跡地の駐車場にも見慣れてきた。
そこにみんなが集う憩いの空間があったことを、どれだけの人が覚えているのだろうか?
ふと不安に思うことがある。
ここ数ヶ月で、周囲の古い家の建て替えが急激に進んでいるように思う。
戦前から残る路地が点在するこの街も、10年後の姿は激変しているかもしれない。
写真はその時の記憶を鮮明に浮かび上がらせるが、現実の世界は淡々と流れていく。
寂しい気もするが、それはきっといいことなのだろう。
今はそう信じたい気分だ。

- 2007/10/24(水) 21:33:31|
- Nikon F4 28mm-85mm
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去年の春、東京に引っ越すことを決めて部屋を探していた日、最後に下見をしたのが今住んでいる部屋だった。
4部屋目だったこともあり、夕暮れ時にさしかかっていて、半ば諦めていたのだが、この部屋に入ってベランダに出た瞬間、「これは住め、ということだな」と感じた。
ベランダから護国寺の森と
大正湯の煙突をシルエットにして、大きな夕陽が沈んでいくところだったからだ。
東京に住んで、こんな風景を眺めながら生活できるなら、少しぐらい家賃が高くても良い、と思ったのだ。

結局その後1年半弱の間、毎日のように
大正湯の煙突を眺めて暮らしていた。
季節によって太陽の沈む位置がどんどん変わって行く様子や、煙突の先端部にカラスが止まっている妙に絵になる風景を、東京の中心部にいながらにして味わえることは、この上ない幸せだと感じていた。
実際に銭湯を利用した回数は数えるほどしかなく、えらそうなことを言える立場ではないが、しっかりと機能を果たしている煙突を見ることができなくなるのは寂しい。
ましてやその煙突さえもなくなる日が近づいていると思うと、、、、
いつまでも変わらない風景というのはないのだが、いつまでも変わらないでいて欲しいと思える風景は確実にある。

(・・・続く)
- 2006/10/11(水) 22:46:28|
- Nikon F4 28mm-85mm
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ここに引っ越してきて1年半。
毎日のように眺めている目の前の銭湯が営業を停止して2ヶ月弱。
そんなに早いと思っていなかった取り壊しが決まった。
ショックだった。

土曜の朝起きていつものように銭湯に目をやると、作業服姿の若者達が銭湯にぞろぞろと入っていく。
まさかと思い少し様子を見ていると、解体用の足場が手際よく組み上げられていく。
いつかは来る、と思っていた日がこんなに早く来るとは、、、。
すぐに解体作業を取り仕切っている人と交渉し、中を写真に撮らせてもらえるようお願いした。

聞くと、建物が建てられたのが昭和9年。
木造で2階分以上はあろうかというほどに天井が高く、さらに歌舞伎座に用いられるような建築様式で葺かれたという瓦屋根。
確実に文化財的価値はあるのだろうが、需要が見込めず、改築に最低3千万円以上かかる上に原油高。

戦火を潜り抜け、数え切れない人々の汗と疲れを流してきた歴史があっても、現在の社会の枠組みの中で不要と判断されれば存続させることはできない。
頭ではわかっているが、、、、

寂しさと、何もできないことへの悔しさからか、カメラを持つ手が震えた。
(・・・続く)
- 2006/10/11(水) 00:13:43|
- Nikon F4 28mm-85mm
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