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日々の空

気の向くままに写真を撮り、思いつくまま文章を綴った日々の泡の記録。

古いギター

ギターを練習中の若者と話をしていて、バレーコードで挫折しそうだと聞いた。
長らく使っていないギターがあるからあげようか?と聞くと嬉しそうに欲しいと言ってくれた。
さすがにそのまま渡すのも、と思って弦を張り替え、ネックの反りを調節し、ボディを磨いた。
他にもあと3本のギターが、長らく弾かれないまま寂しそうにしているのがしのびなく、全て同じように弦を張り替え、ボディを磨いてあげた。

最後の1本の弦を張り替え終わり、音を出した瞬間、あの頃の記憶が鮮明に蘇る。
匂いの記憶は長期記憶というが、音楽の記憶も長期記憶なのかもしれない。
あの頃というのは、堺東の商店街で歌っていた頃のこと。
当時の歌や出会い、別れ、いろんなことを思い浮かべるが、やはり一番心が動くのは仲間のことだ。
今でも連絡を取り合える人もいれば、そうではなくなってしまった人もいる。
みんなどこかで元気にやってくれていると信じているが、音楽はまだ続けているのだろうか?
当時のように大声で、何もセーブすることなく大音量でギターをかき鳴らして歌いたい。
歌が上手いとかギターが上手いとか、そういう価値基準ではないところで繋がり合えていた人たちと。
今道でばったり会ったら、お互い当時とは価値基準も変わってしまっていて、居心地の悪い空気の中苦笑いでもするのだろうか。
それとも当時と同じように熱く、純粋な会話にのめり込めるだろうか。
不安なようで、楽しみなようで、でもこういう思いはきっと心の中にしまっておいて、美しいままで置いておいた方がいいのだろう。

古いギターはもうすぐ若者のところに旅立っていく。
ギターが上手くなってほしいとか、挫折しないようにがんばってほしいとか、そういう思いがないわけではないが、何よりこのギターによって新しく大切な人に出会えることを心から祈っている。



  1. 2021/06/14(月) 00:14:00|
  2. 音楽
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有元伸也写真展「Tokyo Debugger 2019」を見に。

Gallery&Darkroom  Limelight(https://www.facebook.com/GalleryLimelight)で開催されている有元さんの写真展「Tokyo Debugger 2019」を見に。
今年は東京での展示もトーテムポールでは開催されておらず、海外やZen Photo Galleryでの展示だっったので、大阪での展示はかなり楽しみにしていた。
しかもTokyo Debuggerのシリーズは新宿の街やポートレートを撮ったTokyo Circurationのシリーズと双璧をなすシリーズで、個人的に非常に好きなシリーズ。
このシリーズを撮り始めた頃にはトーテムポールで色々お話を伺っていて、その際にはなんとなくしかその意図や全貌について理解できていなかったものが、時を経るご
とに理解が進み、とても重要なシリーズであることがわかってきた。それと同時にこのシリーズも非常に好きなシリーズとなった。

今回の展示では、昆虫やカエル等東京郊外の大自然の中に生息する生き物を間近で捉えたものと、少し引いた視点で人間の営みと自然の力を捉えたものとが混在している。
そのバランス、特に後者の写真に非常に惹かれるものが多かった。

こちらのシリーズも来年写真集を作られる予定とのことで、こちらも非常に楽しみです。

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  1. 2019/11/17(日) 22:59:00|
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奥山淳志さんの「庭とエスキース」

 
奥山さんの「庭とエスキース」を読んで、感想をなんとか残したい、誰かに伝えたい、という思いとは裏腹に、自分の表現力でこの思いが全然伝えられないもどかしさから、どうしても筆が遠のいていた。
そして怒涛のような日々に突入し、気づけば随分時間が経ってしまっていた。

先日、全国巡回中の「弁造さんの庭とエスキース」展が神戸で開かれ、奥山さんが来られてトークショーが行われることを知り、なんとか駆けつけて久しぶりに奥山さんともお話することができた。
そしてこんなに素晴らしい本が少しでも多くの人に読まれることを切に願う一人として、やはり何かを伝えないわけには行かない、という思いを改めて強くし、拙い文章であろうと何であろうと、とにかく言葉に落とそうと再決意した次第。


首を長くして待っていた「庭とエスキース」が届き、食い入るように読み、東京に移動しなければならない時にも新幹線でずっと読み続け、深く心に残るエピソードや文章はスマートフォンで写真を撮って何度も読み返した。
気づけば弁造さんと奥山さん、そして写真集の中ではそこまで大きく登場していなかった奥山さんの愛犬さくらが、自分の中にどんどんと入ってきて、いつのまにかその魅力に取り憑かれている。

個人的なお付き合いの中から、「庭とエスキース」が世に出るより前に、たくさんの弁造さんにまつわるエピソードやお話を聞いてきた。
写真集も穴が空くほど見続けている。
だけど文章で綴られる弁造さんは、また写真とは違ったリアリティを持って、目の前に立ち上がってくる。
銀座の奥山さんの個展で、そして神戸の弁造さんの個展で聞いた弁造さんの肉声と相まって、なんともチャーミングで魅力的な弁造さんという人物が、会ったこともないのに身近な人のように感じられる。

何より奥山さん文章は、ブログであっても写真集の中のエピソードであっても、いつも強烈に思考を刺激し、いつも頭の中で様々な思いが浮かび上がってくる。
自分は奥山さんの写真はもちろんのこと、文章もとても好きなので、これだけのまとまった文章を手に取れる物理的なものとして所有でき、体験できることの喜びはとても大きい。
奥山さんの文章には、いつも問いがある。
それも簡単には答えがでない問いばかり。
「庭とエスキース」でも、具体的なエピソードが語られると同時に、この「問い」の答えを探し続けるような言葉が並ぶ。
だから、自分にとってはこの本は単なる弁造さんの物語ではなく、生きることを考えるための導入剤であり、ある種の哲学書のでもある。
奥山さんがいつも言われているように「わかった気にならない」ことに注意しながら、でも奥山さんの文章を読んでいると、なんだか少しだけ近づけたような気になる断片が散りばめられているように思うから、心が満たされる。
でも、本当はその核心の部分は、近づいてしまうとしゅっと消えてなくなってしまうのかもしれない。そこにふっと読者を近づけてくれて、でも消えてしまわないように突き放してくれる、そんな文章が並んでいる。

弁造さんにとって社会に伝えたいものはとても明確だったように見える一方で、自分の内面から湧き出る「絵を描くこと」については明確に語られない。
人生を賭して伝えたいものがある一方で、伝えなくてもいいものもあるということだろうか。
生きることで残るものはなんだろう?残したいと願って生きるものってなんだろう?
伝えたいもの?残したいもの?伝えるのではなく表現したいもの?表現することと伝えることの違いがあるのか?
読んでいて、考えていても、自分の中にもどんどん問いが浮かんでくる。

写真はシャッターが押された瞬間の時間を目の前に連れてきてくれる。
その前後の時間を想像することもできるし、複数枚の写真で季節の移り変わりや時の流れを感じることもできる。
今回「庭とエスキース」を読んで感じたのは、写真を見たときとの感覚の違いだ。
当たり前といえば当たり前だが、奥山さんによって語られるエピソードの数々や、弁造さんと過ごす時間の描写が、実際の時の流れを半ば強制的に体験させてくれる。
これは文章を追いかけながら、追いかけている時間、つまり読んでいる時間自体を拘束されながら体験していることからくるものかもしれないが、ここに写真とは違った感動、喜びがある。
写真と文章という、まったく別の次元のメディアが、弁造さんと奥山さん、そして愛犬さくらの三者によって交錯し、無限の広がりを見せている、そんな感覚を持つ。
弁造さんとの日々を文章で読みながら、写真集で何度も見たあの写真を映像として思い浮かべる。
弁造さんの庭の写真を見ながら、文章で読んだエピソードや奥山さんと弁造さんの関係性を思い浮かべる。
なんと贅沢な体験だろうか。

弁造さんのことを知ってから随分時間が経つ。
まだ生きていた頃に一度お会いしてみたかったなぁ、という感覚もある。
でもすでに会ったこともないのにどこかに親しみを感じている。
出会いというのはお互いがお互いに影響し合って成立するものだとすると、自分は弁造さんには出会っていないのかもしれない。
だけど、奥山さんを通じて弁造さんの言葉を自分の人生の中にどこかで取り入れているだろうし、奥山さん自身の言葉も自分の中に入り込んで来ているのだと思う。
奥山さんの写真に出会い、奥山さんと出会い、弁造さんの人生に触れることができ、自分の人生が少し豊かになる気がする。
多くの本を読んできたけれど、こんな風に思える本にはめったに出会えない。
そういう意味では、本当に奇跡のようなことだと思うし、いろいろな偶然に感謝したい。

まだこれから「弁造さんの庭とエスキース」展は全国を巡回する。
これまで奥山さんのこと、弁造さんのことを知らなかった人との出会いが生まれ、同じような体験をしてもらえて、さざなみのようにこの感覚を持つ人が徐々に増えていくといいな、と思う。


  1. 2019/09/29(日) 00:19:00|
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有元伸也写真展「TIBET」を見に。

Zen Foto Galleryにて、有元伸也さんの「チベット」を見に。
以前にも書いたことがある通り、有元さんのことを知ったきっかけは「西蔵より肖像」で、それ以来のファンなので今回の展示、写真集の発売には特別な思いを持っている。 

展示は恐ろしく美しいプリントに圧倒された。
中でも特大のプリントは、有元さんの代表作でもあるチベットの少女が雑踏の中で座っているものと、ヤクを引いた少女が雪の中で佇むものが印象的だった。
この2枚の写真が撮られた際のエピソードも聞いていたので、その思いもあって感慨深い。しかしそんなことを考えなくとも、とにかく美しく、歴史に残っていく名作だと思っている。

しかし写真集の中から何カットオリジナルプリントを焼いていただいただろう。
その中には、写真集には含まれていなかったものもあって、「当時の技術では焼けないと思っていた」ゆえに写真集に入らなかったものも。
今回の新編写真集には、しっかりとそんな写真も含まれていて、個人的にすごく嬉しかった。

今の有元さんの作品とチベットの作品が、鬼海弘雄さんの表現を借りると「一筋の川の流れのように繋がっている」ことを、多くの人に感じてもらいたいと思う。

IMG_20190430_204555_660.jpg 

  1. 2019/04/30(火) 21:05:00|
  2. 写真展
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奥山淳志写真展「さようならのはじまり」

奥山淳志さんの写真展「さようならのはじまり」へ。
トークイベントにも参加。

奥山さんの写真展が関西で開かれるのはおそらくニコンサロンの巡回展以外では初めてではないかと思う。
KOBE 819 GALLERYのオーナーが奥山さんに惚れこんで実現した企画とのこと。
展示は弁造さんではなく、「あたらしい糸に」のシリーズ。
プリントをほぼベタ焼きサイズにして、1つのフレームに20枚収めるというスタイル。
1枚の写真ではなく、複数の写真から見えてくる空気感のようなものを確かに感じる。
ベタ焼きではなく引き伸ばし機にベローズでわざわざ”引き伸ばさない”で焼くという、奥山さんらしい仕事をされていて、そのあたりのお話が非常に面白かった。
仕上がりの微妙な違いもさることながら、間に空間ができることにより、覆い焼き等のテクニックが使えるようになる、というお話などは、なるほどなぁ、と思った次第。

内容の話は、なぜこのタイトルなのか?というところから非常に深い話へ。
祭礼が今その意味を失いつつあって、でも続けることによって何か未来へ向けてのポジティブなものになる、つながっていく、そういう観点から「あたらしい糸に」というシリーズだったものが、なぜ「さようなら」なのか。
具体的なエピソードがきかっけとなって、祭礼の終わりをリアルに意識し始めた瞬間、今続けているその意味を真剣に考えるようになり、そのことで今の時間がより輝きを増すというような話は、生と死の話にも通じるものがあって、非常に共感できる。
当たり前のことを当たり前だと思わずに、それが当たり前ではない世界を意識することで、眼の前の今の貴重さが立ち現れてくる、そんなイメージ。

弁造さんのシリーズはパーソナルな視点で撮られているシリーズで、このシリーズはパブリックな視点で撮られているようにも思う。
両者の作品がここまでしっかりと多くの人の共感を得るレベルで発表できる写真家はあまりいないのではないか、と思える。

奥山さんとも少しの時間ではあったものの、ゆっくり話すこともできて、直近4月16日に発売される「庭とエスキース」についてのお話も伺えた。
こちらは弁造さんのシリーズを主に文章で綴った作品で、みすず書房から発売される。
常々奥山さんの写真と同時に文章にも強く惹かれていたので、今から本当に楽しみ。

 

このところ奥山さんの投稿が続いているので奥山さんのファンのブログみたいになってきましたが、まもなく有元伸也さんの写真集「TIBET」も発売になるので、そちらもまた書こうかと思います。



  1. 2019/03/10(日) 23:17:36|
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